写真と共に受験時代を語る講師トーク その①~遠野あすか~
──クラレスの講師の方々ご自身が、宝塚音楽学校の受験準備をされていた頃や、音楽学校に入学されてからの思い出やエピソードを、
当時のお写真を見ながら語っていただくトークシリーズの第1回目として、クラレス主宰の遠野あすかさんにお話しを伺います。
2枚のお写真をお持ちいただきましたが、まず、こちらのグループで撮られた写真はいつ頃撮影されたものですか?
これは音楽学校に合格する4ヶ月前のものです。
本当は受験直前の3月の写真がいいなと思ったのですが見つからなくて。
でもこれは同じ年に受験した皆で、宝塚大劇場の楽屋口の前で撮ったものなんです。
記憶が定かではないのですが、たぶん皆で入り待ちか出待ちをしたところだと思います。
ちょうど今の受験生達と同じぐらいの年頃、高2なので、こういう時代があったんだよ、と見て欲しいと思いました。
宝塚音楽学校を目指すということは、まず最初にみんな宝塚ファンじゃないですか。
ですから受験が間近に迫っている時期なので、毎日すごく緊張していましたが、
こうして宝塚を観に行くと本当に楽しくて、ここに入るぞ!頑張るぞ!と思えましたね。
──この頃の毎日で、特に思い出に残っていることはありますか?
私は高校も、受験のためのレッスンに通っていた教室も家から片道2時間ぐらいかかったので、とにかく毎日疲れていました。
口癖が「疲れた」だったほどで、やっぱり移動時間が大変でしたね。
今クラレスに通っている子たちも、2時間かけてきている子が結構いるんですよ。
だからそういう子たちを見ると「行き帰り大変だよね」と実感として思います。
やっぱり中高生ってすごく忙しいんですよね。
朝9時から夕方まで学校の授業があって、自分の時間はそのあとしかないので、
受験準備期間が1年あったとしても、実際に受験のために使える時間って4分の1ぐらいしかないわけです。
ですから生徒たちを見ていても「あぁ疲れてるな」と思う日もあるのですが、
学業と両立しながら、本当によく頑張っていると思います。
──それはご経験者だからこそわかるお話ですね。そしてもう1枚がお着物姿、晴れ着のお写真ですが、こちらは?
親戚の結婚式だったと思います。
とりあえず振袖にしてみました(笑)、みたいな写真なんですけど、
受験生の、特に親御さんが気にされるのが「どういう容姿の子が受かるんでしょうか?」ということなんです。
クラレスに入会される時80%ぐらいのお母様がお訊きになるので。
──そんなに多い質問なのですか?
そうなんです。ですから「こんな感じで大丈夫ですよ」と見ていただこうと思って。
──とても可愛らしいお写真ですが。
いえいえ、決して謙遜しているのではなくて、これをパリコレのモデルの写真とは思いませんよね?(笑)。
実際、今クラレスで同じ17歳ぐらいの子たちをたくさん見ていますが、みんなの方がずっと綺麗です。
顔も小さいしスタイルも年々良くなっていて、容姿というならなんの問題もないと思う受験生が大勢います。
でも「宝塚はよほど選ばれた人じゃないと、うちの子ではとても無理ですよね」とか
「本人があまりに望むからやらせていますけれど、どんなに頑張っても正直受かりっこないと思っています」とおっしゃるお母様がとても多いんです。
──実際にそう口に出されるのですか?
びっくりするぐらい多くの方がおっしゃいます。
ですから「どうしてですか?こんなに綺麗じゃないですか」と言うのですが、
親御さんの目ほど厳しいと言うか、受かる人は超のつく美人、それこそパリコレのモデルみたいな人だけだと思われている。
でも実際は、もっと総合的なもので評価されるので、
お母様やお父様、もちろんご本人も「私じゃ駄目だ」と決めつけずに、勇気を持ってチャレンジしてほしいなと思うんです。
──確かに駄目だと思いながらレッスンするのと、絶対に入るんだと思ってやるのとでは全然違うでしょうね。
そうなんですよ。レッスンを始めるか始めないか迷われている時には、自分に受かる可能性があるのか?は誰しも考えるとは思うんです。
でもその時に家族や自分だけでジャッジしないで欲しいんです。
ほとんどの方がとても厳しめのジャッジで、自分やお子さんの容姿に否定的なんです。
でも十代ってこれからどんどん綺麗になっていく時期で、それを今のトップスターさんと比べて「私では無理」と思ってしまうのは違いますよね。
──確かに「宝塚おとめ」の写真で振り返る、という初舞台からの写真が並べられるコーナーは好きじゃない、とおっしゃっているスターさんは多いですよね。
私もあれ大嫌いでした(笑)。
でも宝塚って、年年歳歳本当に総合的に磨かれていって、どんどん綺麗になっていくので、
中高生のうちから誰もがすごい美貌をもっているという訳ではないんです。
それでもちゃんと受かるんですよ。
ですから始める前から5分でジャッジしちゃダメですよと、特にお父様、お母様にお願いしたいです。
──そういう観点で、遠野さんのご両親は当時どうおっしゃっていたのですか?
まさにいまお話した感覚で、「うちの子の容姿ではまず無理だろう」と言っていました。
しかも私はピアノくらいしか習い事をしていなかったので、
受験のためにちょっとレッスンしたくらいで入れる世界じゃないだろうと決めつけていましたから、
「受かった」と電話しても父親などはまるで信じなかったくらいです(笑)。
でもだからこそ皆さんに、宝塚をミラクルな人だけが入れるところだと思い過ぎないで欲しいなと。
──どうしても受験シーズンというと「東の東大、西の宝塚」という形で、合格発表の写真が新聞に載りますから、
超難関なところというイメージが皆さんの中にありますよね。確かに倍率も高いですし。
そうですね。でも本当に皆さんどんどんこれから綺麗になるし、可能性は無限大なので、
私は無理だと自分やご家族だけで決めて諦めてしまわずに、受験スクール来てほしいなと思います。
──遠野さんは先ほどピアノしか習っていなかったというお話でしたが、受験準備としてはどんなレッスンを?
バレエとジャズダンスと歌を習ってはいたのですが、当時全然うまくならなくて。
謙遜でもなんでもなく受験前は本当に何もできなかったのですが、
音楽学校に入ってから先生達にすごく伸ばしていただいたので、入れて本当にラッキーだったと思います。
やっぱり受験の時って、将来性は絶対考えてくださると思うんです。
小さい頃から宝塚に憧れて準備してきた子もいれば、高3になって知りましたという子もいるわけです。
そのレッスン歴の差は仕方がないところもあるとは思うんですが、
先生達が本人の持つ資質をちゃんと見抜いてくださったからこそ、私も入れたので。
──いまクラレスに通われている方たちと、当時のご自身で違いを感じるところはありますか?
諦めが早く感じます。
世の中に色々な選択肢が増えているからだと思うんですが、
例えば芸能と言っても宝塚以外にもたくさんありますし、
大学やその後の就職についても多くの道があるぶん、特に親御さんが迷われるんですよね。
このまま何年か無駄にするより、大学受験にシフトした方がいいんじゃないか、
という判断がちょうど1年早くなっている気がするんです。
──1年早いと言いますと、具体的には?
私たちの頃ももちろんそういう会話は生徒同士でも何度もしましたし、
実際に中3から高3まで4回ある受験チャンスの、高3の受験前、夏ごろに大学受験との二択を迫られて宝塚を諦めてやめていく人が多かったのですが、
いまはそれが高校2年生の受験前の段階でやめてしまう子がすごく多いので、もったいないなと。
──そうしますと、2回しか受験しないということですか?
そうなんです。やはり試験官の先生はきっと中学3年生から受けるのだったら、
4回のチャンス全て受けてくるだろうと考えていると思うんですよね。
入れる前にもう1年勉強してきて欲しいというような。
でも本人たちやご家庭の温度感は、もう少し早く見極めたいと思われているのが、厳しいところだなと思います。
──実際にトップスターになられている方でも、4回目の受験で入られている方もいらっしゃいますよね。
本当にそうで、何回目で入ったかなんて、入ってしまえば話題にもなりません。
確かに受験生活を4年間続けるのはしんどいなという気持ちはもちろんあると思います。
でもそこを諦めずに頑張るからこそ技術も上がっていくわけで、
実際高3で合格した子はクラレスにも大勢いますから、せっかくのチャンスを自分で狭めないで欲しいと思います。
私も1回目の受験の時は本当に3ヶ月ぐらいしかレッスンしないまま受けて、
運良く2次試験まで行きましたが、ダンスの試験で振りも覚えられないという状態で、
全然踊れなかったので、終わって待機の椅子に帰ってきた時に、隣に座っていた受験生にふっと鼻で笑われたんです。
──その場でですか?!
もう泣きたくなって、でも笑顔でいなければいけないし、すごく悔しかったという強烈な体験でした。
できなかったのは自分が1番よくわかっているのに、こんなにあからさまな態度をとる人がいるんだとショックで。
でもその人は合格して、私より1学年上になられたんですけど、とても面白くて良い方だったんです!
だから私の被害者意識が強すぎたんだと思います。
それに、これは宝塚受験あるあるなんですけど、
この何もわからないまま3ヶ月のレッスンで受けた時は全然緊張しなくて、
受験自体が楽しかったのですが、そこで不合格になって1年レッスンを続けていった間に、
現実が見えてきてどんどん怖くなっていきました。
1年やっても全くうまくならないし、最初にご覧いただいた写真を皆で撮った受験の4ヶ月前の時点で、
もう毎日、毎日緊張していて。
ただ、すごくラッキーなことにその年は面接で詩の朗読の課題が突然出たんです。
上の期も下の期もなかったのに、私たちの時だけ朗読があって、
私は自分で言うのもなんですけど、そういうのがすごく得意で。
外で聞いていた本科生の方たちも「あなたすごく上手だね」と寄ってきてくださったので、
これはもしかしたら入れるかも、と思えてその通りになりましたから、
面接で受かったなと自分で思っているんです。
ですからクラレスでも面接はすごく重視しています。
やっぱりバレエ歴10年の人に、受験の為にはじめたばかりという人は敵わないし、歌もそうですよね。
でも面接は、ちゃんと指導できる先生に生徒さんが集中してついてきてくれれば、
短期間でぐっと良くなりますし武器になります。
いまは1次試験も3次試験も面接だけですし、歌やダンスの試験がある2次試験でも更に面接もある。
本人の資質を1番見てもらえるところなので、
クラレスでも模擬試験を何度も行いますし、今後もずっと力を入れていきたいと思っています。
──実体験からの、しかもトップ娘役にまでなられた遠野さんのお話は、受験を考えている方々にとても参考になると思います。
最後にいまの受験生の方達に遠野さんから伝えたいことを教えてください。
中学、高校に通いながら放課後や土日に受験準備をやっていくのは、本当に大変なことだと思います。
でもその先にどんどん上手くなる、綺麗になる自分が待っているので、その可能性を信じて欲しいです。
それを信じられない子が圧倒的に多くて、数ヶ月で諦めてしまう子もいるのが本当にもったいないなと。
私もお話してきたように、受験生の頃は親に「向いてない、無理だと思うよ」と言われましたし、
自分でも不安を抱えた日もありました。
でも結果として、そのジャッジは間違っていたわけで、
プロの試験官の方たちはもっと深いところまで見てくださっていますから、
自分を信じて諦めずに夢を追いかけてほしい、努力をはじめてほしいとお伝えしたいです。
聞き手/橘涼香(演劇評論家・ライター)