写真と共に受験時代を語る講師トーク その②~愛月ひかる~
──クラレスの講師の方々ご自身が、宝塚音楽学校の受験準備をされていた頃や、音楽学校に入学されてからの思い出やエピソードを、
当時のお写真を見ながら語っていただくトークシリーズの第2回目として、クラレスプロデューサーの愛月ひかるさんにお話しを伺います。
最初のお写真はバレエを踊られている舞台写真ですね?
バレエは4歳から習っていて、これは発表会の写真です。小学校の低学年の頃のものだと思います。
──あ、そうなんですね?舞台メイクをしていらっしゃることもあるでしょうが、もう少し受験時代に近い時期のお写真かと思いました!この頃はどのくらいの頻度で習われていたのですか?
週に3回はレッスンにいっていたと思います。
宝塚も観ていて好きだったのですが、まだ入りたいというよりも観ている方が好きで、
自分としてはバレエを突き詰めてやりたいなと思っていた時期だったので、発表会にも毎年出ていました。
──そこから、次のお写真がレオタード姿のものですが、こちらは?
これが宝塚受験の願書に使った写真です。
──つまり、最初のお写真の小学校低学年の頃はバレリーナを目指されていて、次のお写真で宝塚受験を決められているということですよね?
そこに至る心境の変化と言いますか、宝塚受験を決めたきっかけを教えていただけますか?
私は地元が千葉県の市川市なのですが、市川市文化会館に星組公演『黄金のファラオ』と『ミラ・キャット』が全国ツアー公演としてきたんです。
市川市文化会館は最初の写真のバレエの発表会で自分も立っていた舞台だったので、その同じ舞台に宝塚の方が立たれているのを生で見て大変感動して。
それまでよりぐっと宝塚が近くに感じられて、「私も宝塚に入りたい」と母親に話したので、そこが大きなきっかけでした。
実は、母はずっと私に宝塚を受けて欲しいと思っていたそうなのですが、
娘の人生を強制するのは嫌だからと、口には出さずにその言葉を待っていたらしく
「今言ったよね、宝塚に入りたいって言ったよね?」みたいな感じで(笑)。
もうそこからどんどん宝塚受験に向けて、家族中で盛り上がっていったんです。
──ご家族が宝塚受験に大賛成だったというのは、頼もしかったでしょうね。ではその頃から受験の為にレッスンを増やされたりも?
そうですね。それまでは地元のバレエスクールに通っていたのですが、
宝塚受験をするのであれば面接の対策などもやった方がいいだろうということで、
中学生になったタイミングでバレエスクールをやめて、宝塚の受験スクールに通うようになりました。中学1年生だったと思います。
──その受験スクールではどんなレッスンをされたのですか?
バレエと面接と、歌は受験スクールに教えに来てくださっていた先生のところに別途、個人レッスンに通いました。
結構遠かったのですが週3回以上は通っていたので、帰宅もかなり遅くなりますから、地元の駅まで両親が車で迎えに来てくれた思い出があります。
──そうしますと、ご家族の全面サポートのなかで、中学校時代は宝塚受験一色という感じでしょうか。
元々幼稚園から小中高と続いている学校に通っていて、当初は中学で別の学校を受験するつもりだったんです。
でも母が「宝塚を受けるんだったら外部受験しないで、このまま進学したら?」と言ってくれたので、
内部受験で同じ中学に進みましたので、塾もやめて、部活も特にやらずに帰宅部で、
授業が終わったらすぐレッスンに通ってという、芸事のことだけに専念している生活でした。
──そんな宝塚受験準備に邁進していた頃のご自身と、いまクラレスに通われている生徒さんの受験に対する気持ちや姿勢などに、共通点を感じるところはありますか?
クラレスの生徒たちはみんなすごく仲が良くて、温かい雰囲気がありますが、
私が通ったスクールでも「将来ライバルになるのかもしれないのに、普段からそんなに仲良くばかりしていてはいけない」と、
先生に怒られたことがあったほどみんな仲が良かったんです。
そういうみんなで頑張っている感じは、自分の受験生時代を思い出して懐かしいですし、いつも微笑ましく見ていますね。
──ということは、受験生時代からライバル意識を強く持つ必要はない?
ないと思います。ライバル意識ではなくて、例えば「あの子のように上手になるためにはどうしたらいいんだろう」と自分なりに考えていくことが大切です。
自分のレベルや容姿と向き合う時間って、普通の中学生、高校生の生活のなかではほとんどないですよね。
でも宝塚に入ればやはり厳しい世界ですし、常に自分のレベルや容姿に向き合っていくことになります。
もちろん考えただけではどうにもならないこともありますが、クラレスのレッスンのなかで、身近に上手な子、綺麗だなと思う子がいたら、
どうしたら自分もより綺麗に見せられるのかを考えることができます。
それに内面からも綺麗になっていって欲しいと思っているので、みんなで頑張る、
私たち講師からだけではなくて、受験生同士のみんなから学ぶというのは、大切な機会になっていますね。
──とても建設的なお話ですね。そして、次にご用意くださったのが、宝塚音楽学校の制服姿、つまり見事宝塚音楽学校に合格された写真ですが、
ここに至る受験準備から試験当日までの過程で、特に思い出に残っていることはありますか?
私は受験前に足の指を怪我してしまって、受験ギリギリの時期にまるまる1ヶ月ちょっとレッスンができなかったんです。
バレエ歴は長かったので、ひと月踊れなかったからと言って、受験に支障があるレベルではなかったのですが、
それでも直前にバレエのレッスンができなかったという不安を抱えたまま受験に臨んだためか、本番で転んでしまって。
──バレエの試験でですか?
足が滑ったか何かしたんです。やってしまった!という感じでしたから、よく合格させていただけたなと思うんですが。
──いくらレッスン歴が長いとは言え、直前にレッスンできない状態はご不安もあったと思いますが、
そこで如何に諦めずに試験に臨まれたのかを、受験生の方に伝えるとすると?
その「諦めない」というところに尽きますね。
もちろん諦めている人は誰もいないと思うんですが、
同じ宝塚受験生と言っても、私もそうでしたが家族の強いサポートがある子もいれば、
親御さんには反対されているんだけれども、自分はなんとしてでも受けたいと頑張っている子もいて、環境は人それぞれです。
でも宝塚に入りたいという気持ちで、頭のなかがいっぱいになっているのはみんな同じなので、
例え受験本番で何かひとつ失敗したとしても絶対に諦めない。
ほかの全てでベストを尽くすということは貫き通して欲しいです。
自分がやりたいと思ったことに全力で向き合った時間って絶対に無駄になりません。
私の中でも、もちろん音楽学校時代、劇団時代、色々な良い経験、辛い経験含めて密度の濃い時代がありますが、
やっぱり宝塚を受験するために頑張っていた時代って、本当に青春だったなと思うんですよね。
人生であれほどひとつのことだけを思い続けられた時間って、そうそうないなと、いま振り返っても感じるので。
──受験自体が人生の大きな軌跡になられているということですね。
そして、最後のお写真、こちらは音楽学校の日舞のお稽古でしょうか?
予科生の授業参観の時に家族が撮ってくれた写真です。
私は日舞も中学1年ぐらいから習いはじめて、バレエをやっていると日舞は苦手なのでは?というイメージがあるかと思いますが、
とても優しく教え方も上手な先生に恵まれて、日舞も大好きになったんです。
好きなものは上達するので、音楽学校に入ってからすごく成績が良くなったのが日舞でした。
ですからバレエは外向きで、日舞は内向きで、美しさが全く違うからバレエをやっていると日舞は難しいんじゃないかと決めつけないで欲しいです。
そういう苦手意識が先に生まれてしまうと上手くならないので、なにごとも柔軟に考えて欲しいんです。
宝塚ってダンスのジャンルも幅広いし、歌もあるし、お芝居もある。色々なことができないといけない世界なので。
──そういう意味で、愛月さんが受験生さんたちに特に力を入れて欲しいところはどんな点ですか?
日舞まで受験準備のなかに取り入れなくても入ってからで大丈夫ですが、
バレエはやはり小さい時から習っていた人と、高校生になってからはじめた人とではなかなか埋まらないものがあります。
新曲視唱もピアノを習っていて楽譜が読めるのと、読めないのとではどうしても開きは出ますよね。
私もピアノは好きになれずに続かなかったので、苦労した点でもあります。
だからもちろん小さな頃から色々な習い事に触れている人や、すごい美貌に恵まれている人が有利なのは、事実ではあるんです。
でも、自分を磨いていけば容姿も本当に綺麗になります。
だから踊れる技術がまだ足りないのだとしたら、まずスタイルを良く見せるための体形管理をするなど、
一生懸命できることから取り組んでいきましょうと言ってあげたいですね。
──また、愛月さんはクラレスで面接のレッスンを担当されていますが、ご自身の面接試験の思い出にはどんなものが?
私の期は1分間スピーチで、内容は人それぞれ違っていたのですが、私は「あなたが住んでいる町のいいところ教えてください」という内容でした。
本当にただそれだけを答えて帰ったので、いま面接を教えているのになんなのですが、振り返ると自分は全然喋れていなかったなと(笑)。
ただ「試験官が笑ってくれたら絶対に受かる」と本科生の皆さんがおっしゃったのですが、
私はちゃんと喋れたとは思えないのに、それが可愛らしいと思ってもらえたのか、確かにすごく笑いは起きたんですよね。
──ではやはりそこは大きいと?
もちろん笑いを取りに行くのとは違うのですが、いま自分が模擬試験で受験生を見ていて感じるのは、
この子の話をもっと聞いてみたいなとか、とてもいい印象を感じるな、というのは決して完璧に喋れるからだけじゃないんですよね。
くすっと笑える可愛らしさや、あぁいい子だなと感じられるものがあると自然に点数を高くつけたくなります。
ですから模擬試験を重ねることもすごく重要ですし、できるだけ普段から目上の人と話してみる機会を多くもって欲しいです。
──貴重なお話をありがとうございます。
男役スターとして大活躍された愛月さんご自身の体験から様々に受験時代を振り返っていただきましたが、
改めていま宝塚受験に臨まれている方々と親御さんに伝えたいことを教えてください。
やっぱり一番大切なのは、宝塚に入りたいという気持ちだと思います。
受験対策や、科目にだけ集中し過ぎてしまうと、その気持ちが見えにくくなる子がしばしばいるんですね。
そもそも本当に舞台に立ちたい人なのかな?と思ってしまうほど、
暗いというか、キラキラしなくなってしまうんです。
もちろん技術を突き詰めるとか、さっきも言いましたが体型を綺麗にするとか、色々なことはありますが、
まず大前提として宝塚の煌びやかな舞台に立ちたい、あの舞台でパフォーマンスがしたいという気持ちを、
如何に試験官の方たちに伝えるか?が、一番大事だと思います。
そこが見えなくなってしまっている子が意外なほど多いので、
宝塚が好きで好きで、あの舞台に立ちたいという思いだけなら誰にも負けませんぐらいの気持ちを持って、
レッスンに臨んで欲しいと思います。
私もそういう子に宝塚に入って欲しいので、精一杯サポートしていきますから、
宝塚の舞台に立つんだ!という気持ちを常に持って頑張っていきましょう。
聞き手/橘涼香(演劇評論家・ライター)